東京高等裁判所 昭和55年(行ス)12号 決定
抗告人の本案請求(東京地方裁判所昭和五五年(行ウ)第六三号出廷義務確認等請求事件)の要旨は、「原告(抗告人)は、東京拘置所に勾留されている刑事被告人であり、国及び被告(相手方)を相手どって、国家賠償請求事件及び行政処分取消請求事件等合計五件の訴を提起している者であるが、昭和五五年三月三一日被告に対し、右訴訟のすべての期日の出廷を憲法上の権利として保障することを要求したところ、被告は同年四月一日右要求を拒絶した。よって、原告は被告に対し、原告の民事、行政訴訟のすべての口頭弁論期日に原告を出廷させる義務があることの確認を求める。」というのである。
抗告人の右訴は、特定の事件につき現実に指定された特定の口頭弁論期日に出廷することにつき相手方が許可する義務があることの確認を求めるというのではなく、相手方は、一般的に、抗告人を前記民事、行政訴訟のすべての口頭弁論期日に出廷させる義務があるので、その確認を求めるという趣旨のものであることは明らかである。右訴は、行政事件訴訟法に定める抗告訴訟として、行政庁に対し一定の処分をすべき義務が存することの確認を求めるものと解されるところ、同法上、このような義務確認訴訟が抗告訴訟として認められるかどうか、いかなる場合にそれが認められるかについては、議論の存するところであるが、仮りにそれを肯定すべき場合があるとしても、原則として、法令上または解釈上、行政庁が特定個人に対する関係においてその者の利益のために一定の処分をすべき義務が一義的に定められていることが、義務確認訴訟を認めるための前提要件をなすものと解される。しかるに、本件においては、現行法令上、右のように相手方が抗告人に対する関係において、抗告人の利益のために、その請求するような行政上の行為をすべきことを義務づけられていると解すべき根拠は、どこにも見出せない。かえって、刑事被告人の勾留(未決勾留)は、被告人の身柄を保全し、逃亡及び罪証隠滅を防止するため、被告人を監獄へ拘禁する強制処分であり(刑事訴訟法第六〇条、第七三条)、拘置所長は、右勾留の目的を達成するため拘禁を実施する拘置監(監獄法第一条)の長として、これを総括するものであって、刑事被告人が当事者となっている民事、行政訴訟の口頭弁論期日の出廷についても、当該事件の種類、内容、訴訟の進行状況及び警備、戒護、護送の能否、難易等諸般の具体的事情を総合的に斟酌し、前期勾留目的の実施と牴触しない合理的な範囲内において、出廷の許否を決定する職責を有するにすぎないものであり、抗告人主張のごとく、そのような拘置所長の裁量権を正面から否定し、およそ拘置所長は刑事被告人のために、その関与する民事、行政訴訟のすべての口頭弁論期日に出廷させる義務があるものと解することはできない。
右の次第で、本案訴訟は現行法上許容されていない不適法な訴であるといわざるをえず、したがって、抗告人の本件訴訟救助の申立は、民事訴訟法第一一八条但書の「勝訴ノ見込ナキニ非サルトキ」に該当しないものというべきである。
(蕪山 浅香 安国)